今年の夏は異常なほど暑くなった東京だったため、人様とは逆の動きをしたがる天邪鬼な僕も、世間のお盆休みに合わせて夏バテ回復のために数日間のんびりと過ごすことにしました。僕の部屋があるのは「白金商店街」に面した築三十七年の古いマンション。この商店街はレトロなままの懐かしい雰囲気を維持している、と言えば聞こえはよいのですが、東京の中心部にある商店街の中ではおそらく最もさびれているのではないでしょうか。
そんな寂しい商店街ですが、春祭りと夏祭りのときだけは地元の人達が集まって賑わいます。今年の春祭りはあいにくの雨模様でしたが、夏祭りの日はギラギラと太陽が照りつける晴天になりました。商店街の人達が午前中に準備をする笑顔にも大粒の汗が溢れていたほどです。
行きつけのシシリア料理店は、美味しいシシリア産ワインとおつまみの屋台(上の写真左側の丸テーブルと丸椅子の部分)だけでなく、子ども達のための「スーパーボールすくい」まで用意していました。
スーパーボールが水に浮いた様子を覗き込むと、しばし子どもの頃の気持ちを取り戻した気分になります。
夜には五歳のガキを連れて訪ねてきた娘のランドクルーザーに乗り込み、東京に出てきてから一度は行ってみたいと思っていたアメリカ空軍横田基地までドライブとしゃれ込みました。暑気払いにと思ったのですが、基地のゲートでは警備のアメリカ兵に流ちょうな日本語で「見学はできないので、ここでUターンして戻って下さい」と告げられてしまいました。
幸運にも基地のゲートの内側すぐ近くに世界最大のジェット輸送機C−5ギャラクシーが羽を休めていたのが見えたため、ゲート前で追い返されてもなお航空機マニアの僕と娘は大満足。テンションが上がった父娘は、ゲートを少し離れたところで交通信号にひっかかったときに見つけた屏の外に貼られていた警告版を写真に収めることも忘れませんでした。
次の信号に差し掛かったとき、基地の反対側に米軍払い下げ品を売っていそうなミリタリーショップが目に入りました。
すぐにUターンするよう助手席の僕が指示を出すよりも早く、運転していた娘が機転を利かせてランドクルーザーの巨体を素早く転回させたおかげで、その店の少し先にコインパーキングを見つけることができました。ほんの数分だけ店まで歩く間にもアメリカ人の子ども達や休暇中のアメリカ兵達とすれ違い、横田基地の近くがさながらアメリカ本土のような街並みになっているのが印象的です。店の前までくると、かなり凝った品揃えであることがわかり、当然ながら僕と娘はすぐに店内に突入。
岩国のアメリカ海兵隊航空基地のゲート前にも同じような米軍グッズの店がありますが、ここ横田基地の向かいにある店でも認識票(ドッグタグ)の製作をしてくれることがわかりました。ということで親バカを自負する僕は、娘と自分のドッグタグを注文したのですが、娘の名前はちゃっかりと旧姓で作ってもらったところが我ながら憎い配慮ですね。
来週には六歳になるという娘のガキには何かいわゆる誕生日プレゼントを贈らなくてはいけない立場に追い込まれていた僕としては、ついでのこの店でそれも見つけてしまおうと思い、ガキにもドッグタグを作ってもらったのですがそんなちんけなものでは納得しないぞという雰囲気です。お前の初節句のときにはカブトの代わりに米軍の迷彩ヘルメットの実物を買ってやったんだから、今回の認識票はそれに似合うぞと言っても嬉しがる気配は完全にゼロ。そのまま放っておいてもよいのですが、まあもう少しそれらしいものにするかと思って店の中を歩き始めたとき、BB弾を撃てるモデルガンの横に白木で作られたデザートイーグルを見つけてしまいます。
よく見ると、大きめの輪ゴムを十二連発撃てる子ども用のゴム銃だということがわかったので、娘のガキを呼んでみると途端に目の色が変わりました。今度の誕生日祝いにはこれがほしいということで、レジに持っていくと店員の女性が娘のガキに向かって「絶対に銃口を人に向けない」など様々な注意事項を、ガキの目を見ながらゆっくりと諭すように説明してくれ、最後にすべて理解して了解したときにだけこの銃を渡してあげると念を押してくれたのです。神妙な表情でその忠告を最後まで聞いていた娘のガキは、ちゃんと一人で判断して頷いていたため、店の女性も安心してそのゴム銃を袋に入れて渡してくれました。
これには、わざわざ銃砲等所持免許を取得してまでアメリカ海兵隊とFBIが使用している近接制圧銃を持っていた僕も感動してしまいました。子どもにおもちゃのゴム銃を渡すときにさえ、このように銃の取り扱いについて厳しく注意してくれるとは思いもよらなかったからです。米軍横田基地の前に店を構えているからこその責任感の表れではないでしょうか。
ああ、人の、何とよきことかな!
とことん人間が好きになった保江邦夫