レトロ東京-星辰館〜保江邦夫オフィシャルサイト

レトロ東京

2018.09.14

 しばらく東京を離れた話題が続きましたので、このあたりで白金界隈の話に戻ることにしましょう。僕がよく映画を観に行く高輪台の映画館の近くには古い時代の建物が未だに残っていますが、先日ハリウッド映画『ホースソルジャー』を観終わって白金まで歩いて帰っていたとき、不思議な古い建物に出くわしました。それは丸い灯台のような形状の部分を前面に持ってきた趣のある西洋建築で、塔の先にはこれまた不可思議な青緑色の構造物が突き出ています。

 これだけ見ていると何の建物かはわかりませんが、少し離れたところから全体を眺めてみると古い消防署の建物だということがわかります。すると、丸い灯台のような部分のさらに上に突き出した青緑色の塔はというと、そう、人が登っていって上に立つことができるような構造になっていることから、火の見櫓として使われていたのでしょうか。いやー、無用の用の喩えに出てくる話のように、この小さな丸い台の上に立って遠くを眺めるのは・・・高所恐怖症でなくとも気分のよいものではないはず。昔の消防隊員の皆さんは特に肝っ玉が据わっていたのでしょうね。と、交差点で動かずにじっと見上げていたら、後ろから近所のおばさんらしき女性が教えてくれました。これは昔の高輪消防署で、別の場所に移転して新しくなった高輪消防署の分室として、今でも現役で使われているとか。ということは、あのくそ度胸の必要な火の見櫓に今でも誰かが登っているのでしょうか・・・!!!

 確かに、1階部分にはピカピカに磨かれた現役の消防車が待機していることからも、ここが未だに現役の消防署として使われていることがわかります。

 でも、その現役消防車の横を見てみると・・・、何とそこにはレトロな消防車が展示してあるではありませんか。うーむ、これはきっとこの古い建物が高輪消防署として使われていた頃に活躍した古い消防車に違いありません。

 古川橋から白金・高輪界隈は太平洋戦争末期の東京大空襲でも焼けなかったために古い建物がけっこう残っています。ですから昭和のレトロな東京の街並みを見つけたいときには、近所に散歩に出ることにしています。浅草や両国に出かけてみても、空襲で焼けてから新たに造り上げられた建物がほとんどなためにあまりレトロな感じは伝わってきません。それが、白金・高輪界隈にはまさに「レトロ東京」といった雰囲気が残されているのです。

 犬も歩けば棒に当たるではありませんが、白金を歩けばレトロ東京に出会えるわけです。例えば、大阪でいえば「文化住宅」のような昔風のアパートが未だに現役で活躍しています。入り口を入ってから廊下や階段を通って各自の部屋にたどり着く形式のアパートは2階建ての直方体の形状をしているのが普通ですが、白金にあるのは当時としては斬新な設計だったと思えるちょいと複雑で非対称な造作になっていて、外からでは中の部屋配置がよくわからない仕組みになっています。

 おまけに「白銀荘」という看板照明が掲げられた入り口を見ると、なんとそこだけは何故か左右対称になるように二つの入り口が並んでいて、まるで鏡に映し出されたかのようではありませんか。この大きさのアパートであればどちらか片方の入り口一つで充分なはずですが、いったい何故二つの入り口が造られたのでしょうか? まさか銭湯のように男は左側のドアから入り、女は右側のドアから入るというようにして、アパートの中も男性用の部屋と女性用の部屋が完全に分離されて配置されているのでしょうか?

 うーむ、なかなか想像力をかき立ててくれますね、この「白銀荘」は!

 ちなみに、この「白銀」というのは「白金」と同じで、時代によっては「白金」という土地名の漢字を「白銀」にしていたこともあったそうです。その名残で今でも「白金」を「しろかね」と呼ばずに「しろがね」と呼ぶことが多いとか。

 この不思議な「白銀荘」から100メートルもいかないところには映画にもなった漫画『三丁目の夕日』に出てくる「鈴木オート」のような小さな街の自動車修理屋もあります。

 ただし、それが白金にあるというからには・・・、そう、そこで修理されているのはほとんどがベンツやBMWといった高級外車なのです。その自動車修理屋を初めて見つけたとき、岡山から乗ってきたミニクーパーの整備点検を東京のミニクーパー専門店でやってもらおうと思っていた僕の考えは瞬時に変わってしまいました。何も白金からは遠い都内のミニクーパー専門店に持って行かずとも、歩いて5分のご近所にあるこの店に持ち込むのが得策であり自然なことではありませんか!

 そこで白金の「鈴木オート」に入っていくと、品のよい作業服の男性が応対して下さり、最終形式のミニクーパーであればその店でも整備や修理が可能だとのこと。さらに好都合なのは、この店は僕がミニクーパーを置いている高層オフィスビルの地下駐車場から歩いて3分ほどのところにあるため、整備が終わったときには店の方にそのまま運転して駐車場に入れておいてもらうことにすれば、写真でおわかりのように決して広くはない白金の「鈴木オート」のお荷物になることも避けられます。いやー、偶然とはいえ、駐車場だけでなく自動車整備店までもが部屋のすぐ近くに見つかるとは、やはり白金に出てきたのには何か神の御意志のような働きがあったのではないでしょうか。すべてがこのように見事に流れていくのですから・・・。

 その地下駐車場といえば、住所は白金ではなく明治通りを挟んで向かい側の南麻布になるのですが、フランス大使館や中国大使館などが建ち並ぶ環境にあるため、外車の比率が東京の中でもグッと高くなってきます。ベンツやBMWあるいはポルシェは当たり前で、週に一度くらいはフェラーリやランボルギーニが甲高い排気音を残して走り去っていくのを見送ることもあります。むろん、もっと実用的でない趣味の車といった珍しい外車も少なくはなく、先日などは僕のミニクーパーの駐車スポットの隣にイギリスのクラシック調スポーツカー「ケイタハム」が置かれていました。

 ミニクーパーも一応はイギリスの名車との評判があるクーペであり、こうしてケイタハムの隣にいても、決して面構えでは負けていないのではないでしょうか。

レトロな気分に酔う保江邦夫

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