気分転換日-星辰館〜保江邦夫オフィシャルサイト

気分転換日

2018.08.03

 先日のこと、最近の拙著の一冊『神様の覗き穴』(ビオマガジン社)をまとめて100冊購入して下さるという会社から連絡をいただきました。その会社の販売店の店長さん100名に配り、読んでいただくためだそうです。そんなありがたい話だったので、僕はその100冊にサインをしてお送りすることにし、出版社の編集部に向かいました。しかし100冊にサインするというのは、実際にやるとなるとかなり過酷な作業です。しかもミスしてしまうとその本自体が無駄になってしまいますので、かなりの緊張状態が続きます。サイン本を作るときというのはだいたい、長い付き合いの海鳴社さんの馴染み深い社屋で、社長さんと軽口を叩きながら、せいぜい30~50冊をのんびりやっつけるといったところ。ビオマガジン社の編集部は、取材や撮影で何度か訪れてはいるものの、明るい光が差し込むオフィスで、スタッフの方もいろいろと気遣ってくださり、かえって緊張感を増してしまいました。とはいえ、そんな慣れない緊張感がよかったのか、ノーミスで最後までやり遂げることができたのです。

 出版社の社長さんがご自慢のカーオーディオを披露して下さりながら白金まで車で送っていただいたまではよかったのですが、自分の部屋に戻ったとたん神経的な疲れがどっと出てしまい精神的にかなり暗くなってしまいました。それもそのはず、いつもなら編集部の皆さんと僕の間に入って絶妙なタイミングで仕事や雑談を笑顔で進めていく、潤滑油的存在になっている美人秘書嬢が実家で介護の手伝いのために帰省しており、僕一人で社交辞令からサインの作業さらには今後の企画の打ち合わせに至るまですべてをこなさなくてはならなかったのです。

 こんなときは眠ってしまうに限ります。ただし今回は翌日になってもまだ暗い雰囲気が抜け切らずに残ったままでした。そのままやり過ごしてもよかったのですが、これは少し気分転換が必要だと感じた僕は、前夜行きつけの中華料理屋の親父さんに教えてもらった「芝浦南埠頭」から「レインボーブリッジ」を無料で歩いて渡ることができるという話を思い出し、それを実行することにしたのです。

 まずは愛車ミニクーパーのカーナビを「芝浦南埠頭」にセットし、いざ出発。ほんの10分ほどのドライブであっという間に目的地に到着してしまったのはいささか拍子抜けでしたが、見ればコンテナ埠頭の向こうに美しいレインボーブリッジの懸垂線が青空を引き立たせているではありませんか!

 ところが、どうもこの場所は立ち入り禁止だったようで、警備員の方に自転車で追いかけられてしまいました。詫びついでにレインボーブリッジを歩いて渡るためにはどこに行けばよいのか聞いてみたところ、レインボーブリッジから延びている高速道路がカーブしている部分の真下に「レインボーブリッジ駐車場」があるので、そこに車を駐めて歩くように教えて下さいました。

 あっさりたどり着いたその場所からは、確かにレインボーブリッジがすぐ目の前です。

 ガラ空きの「レインボーブリッジ駐車場」にミニクーパーを駐めた僕は、まずは「芝浦埠頭」の先端まで歩いて東京湾の海を眺めることにしました。文字どおりレインボーブリッジの真下を海に向かって歩いていくとき、振り返って見上げるとレインボーブリッジの歩道へと上がるために10階建てのビルのような巨大なガラス張りの橋桁がありました。

 そのままもう少しだけ巨大なレインボーブリッジの下を歩いていくと、じゃーん、ついに東京港の海面が見えてきました!

 さらに芝浦埠頭の先端まで歩いてみると、南から見たレインボーブリッジの全貌をこの目で捉えることができたのです。

 真っ青な空にかかる天橋立のような美しい姿を見ると、これは急いであの上まで登っていかなくてはと興奮してきます。橋桁ビルの7階部分までは2階から専用エレベーターがあり、乗ってみるとガラス張りで外も見えるようになっていました。

 地上7階部分でエレベーターは自動的に止まり、いよいよレインボーブリッジの歩道部分へと向かいます。

 エレベーターから出たところにあったのは、大きな「非常口」サインが掲げられたガラス張りの自動ドアです。他には誰もいない、つまり無人の7階の廊下から自動ドアを抜けると、そこにあるのは・・・。

 そう、歩道部分へと繋がる金網張りの短い通路で、ガラス窓や金網をとおして東京湾の海面が見えます。

 そこからいよいよレインボーブリッジの歩道へと足を踏み入れたとき、そこに広がるのは無機的で近未来的な景色でした! そう、鉄の天井の下に「ゆりかもめ」が走り抜ける鉄枠が突き抜け、その手前をアスファルト敷きの湾曲した道路が冷たく光っているのです。

 この分厚い鉄の天井の上には、首都高速の有料道路部分が敷設されているはずですが、残念ながら歩道部分からは見上げることはできません。見えている道路は無料の通常道路部分のみですが、それでも乗用車やトラックの横を「ゆりかもめ」の車両が走り抜けていく様はまるで映画の中のシーンのようです(写真の中央の柵の中に「ゆりかもめ」が映っていますよ!)。

 歩道を少し歩いていくと金網ではなく鉄の柵で歩道の安全を保っている部分があり、そこからであればレインボーブリッジの下の景色が一望できます。最初に見下ろしたのはレインボーブリッジ駐車場で、そこには愛車ミニクーパーの赤い車体と白色の屋根が小さく見えていました(写真下端に小さく写っています!)。

 海面に目をやると、白く塗られた船体が美しい東京湾クルーズの客船がレインボーブリッジの下に向かっています。遠くに広がる高層ビル群の景色をバックにして、これまた日常から大きく離れた景色を目の当たりにすることができました。

 それだけでは、ありません。クルーズ船がレインボーブリッジの真下に差し掛かる頃に、今度は古代の御朱印船を模した観光船が近づいてきます。

 その御朱印船がクルーズ船に続いてレインボーブリッジの下をくぐろうとしていたとき、対岸の橋桁近くを隅田川の遊覧船で宇宙船を模した近未来的デザインの大型ボートがかなりの船足で走り抜けていました。いやー、本当に非日常的な構図に簡単に出会えるのですね、東京というところは!

ここまで日常を離れることができたおかげで、本当に気分転換ができた保江邦夫

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