思えば、遠くに来たもんだ-星辰館〜保江邦夫オフィシャルサイト

思えば、遠くに来たもんだ

2018.03.22

 先日最新刊『合気完結への旅—透明な力は外力だった−−』をいつもお世話になっている出版社の海鳴社から出していただきました。著者がいろいろと口を出せるのは文章や写真と図版の内容と配置だけで、表紙カバーなどのいわゆる装丁デザインは出版社が決めて下さったものを確認するだけになります。今回の表紙デザインもまた、出版社の編集主幹の辻さんとデザイナーの初山さんがまたまた見事なものを作ってくれました。それを最初に拝見したときには気づかなかったのですが、対談相手をしてくれた共著者の指摘でわかったことがあったのです。

 それは、穏やかな湖面に沈みゆく夕日が暖かく光っている今回の表紙デザインが、ちょうど十年前に僕が初めて合気についての本『合気開眼−−ある隠遁者の教え−−』を同じ海鳴社から出版していただいたときの表紙と見事につながっている、対になっているということです。十年前の表紙はやはり穏やかな湖面を朝日が照らしているのですが、太陽そのものは厚い雲に隠されてその姿は見えていませんでした。その頃の僕には、まだ「合気」というものの本当の正体がまったくわからず、文字どおり五里霧中の朝霧に包まれていたときに初めて雲間から一条の光が射し込んできたかのように「汝の敵を愛せよ」というキリストの愛が合気の原点だとスペイン人神父から教わった直後だったのです。そのときのことを著したこの本は、まさにこの表紙カバーのデザインがその状況をうまく捉えていました。

 そして十年の月日が流れ、雲に隠されていた合気の真実がついにそのベールを脱いではっきりとわかったという事実を公開することにした『合気完結への旅』と題する最新刊の表紙カバーでは、夕日がその真円の姿を惜しげもなくさらしているのです。これ以上に読者に強く迫る表紙デザインが他にあるでしょうか。海鳴社の辻さんと初山さんに、完全に脱帽です。

 しかしまあ、この十年を振り返ってみると、まさに「思えば遠くに来たもんだ」という言葉がピッタリです。最初は岡山にあるノートルダム清心女子大学の合気道部で女子大生のみに教えながら少しずつ操れるようになっていた「合気」だったのですが、その『合気開眼』が出版されてからというものあれよあれよというまに、遠く県外からたくさんの武術家の男性達が通ってくれるようになり、気がつくと岡山の道場での稽古に参加している人達の中のかなりの数が関東圏にお住まいだったのです。

 関東からたくさんの人が新幹線や車で岡山に往復するよりも、僕一人が新幹線で往復するほうがずっとエコだと閃いた僕は東京に道場を出そうと決意したのですが、その最初の稽古日として予定していた日の数日前に、あの3.11の東日本大震災が起きてしまい、東京での道場開きは取りあえず延期することにしました。けれども数日間考え抜いた末に、こんなときだからこそ関東の人達に少しでも元気になってもらおうと、4月から東京の文京区に道場を構えることにしたのです。

 そのときから、ちょうど七年の月日が経ちました。そして、去年の4月からは東京の港区白金に居を構えることになり、このミニメッセージでも既に何度もお伝えしたように岡山で衝動買いした真っ赤なミニ・クーパーを、今年の2月から東京中心部での下駄代わりに転がしています。

 十年前の僕からは、とうてい想像することさえできなかったほどの大きな人生の変化であり、それがこの二冊『合気完結への旅』と『合気開眼』の表紙デザインに象徴されているのではないでしょうか。

 「思えば、遠くに来たもんだ」

 この十年間を振り返ったとき、いつも頭に響き渡る台詞です・・・。さて、今から十年後にはどこでどんなことをやっているのか・・・、想像するだけでワクワクしてきますね。

 

 保江邦夫

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