岡山で生まれ育った僕が東京は白金に移り住んできたのは一昨年の春。その夏、僕は東京名物隅田川の花火大会に出かけました。土砂降りの中で決行された花火大会でしたが、ただただ見物人の多さに圧倒されて二度と来るものかと決意したものです。そんなわけで、昨年の花火大会のときには東京から関西に避難して無事でした。今年はというと、東京脱出こそしませんでしたが、むろん浅草には近寄りませんでした。
では、隅田川の花火大会はまったく見なかったのかというと、そうではありません。白金の僕の部屋から車で10分のところにあるレインボーブリッジの芝浦埠頭側の橋桁まで行き、レインボーブリッジの上からゆっくりと見物させていただきました。以前このフォトエッセーでもご紹介したように、レインボーブリッジには歩道もついていて、歩いて渡ることもできるのです。そのときに歩道の上から東京港越しに隅田川の河口やスカイツリーを遠くに眺めたとき、そこからなら隅田川の花火も見えるのではないかと、あのとき閃いていたのです。
というわけで、今年の花火大会の夕方には、レインボーブリッジの歩道まで上がってスタンバイ。他にも大勢の見物客が立ち並んでいると思いきや・・・、いつもと同じでほとんど人はいません。まさかレインボーブリッジの上から隅田川の花火大会を見物できるなどと誰も思いつかなかったのか、たまたま通りがかったと思しき数名の人たちが見ているだけでした。
まあ、浅草で見ればあのドでかい打ち上げ花火も、レインボーブリッジの上からでは小指の爪ほどの大きさにしか見えず、これでは線香花火にも負けてしまうかも・・・。おまけに音はほとんど聞こえません。これではわざわざここで見ようという人がいないのも納得です。まあ、打ち上げ現場間近で見上げるあの迫力には及びませんが、それでも隅田川の花火大会をリアルタイムでのんびりと鑑賞することはできたわけです。
極めて快適に花火大会見物ができた僕は、その足で愛車ミニクーパーを飛ばして虎ノ門ヒルズへと急ぎました。知り合いの檜舞台の応援に駆けつけるためです。
虎ノ門ヒルズの高層階にある外資系ホテルのラウンジは初めてでしたが、内装はなかなか知的雰囲気に溢れていました。例えば高い天井部分につり下げられていた巨大なオブジェは左右一対になっていて、一つはこのように原子核の周囲を粒々の電子が飛んでいるというイメージでした。
そして、もう一つはというと、原子核の周囲を波動としての電子が波打っているイメージです。
これがラウンジの天井を二分しているのですから、僕のような量子力学を専門としてきた理論物理学者は唸ってしまいます。むろん、内装は物理学者だけを唸らせるものではなく、窓辺には生命の木を彷彿させる現代アートが美しい東京の夜景を引き立ててくれていました。
確かに、そのオブジェの背後に広がる東京タワーの夜景は秀悦でした・・・。
こうして、隅田川の花火大会の余韻を残した東京の夜空を虎ノ門ヒルズの高層階から眺めながら、夏の日の週末の夜は更けていったのです・・・。
明けて翌日曜日は久し振りに文京スポーツセンターを会場に、東京道場の稽古がありました。いつも使っている江戸川橋体育館の近くにはコインパーキングがたくさんあるのですが、文京スポーツセンターの周囲にはあまりありません。その日は運よく最も近い場所に駐車することができたのですが、見ると隣の駐車場所には僕の愛車とほぼ同じ年代の古いポルシェ911で、しかも同じ系統の赤色塗装のものが先に駐まっていました。
ということで、さっそく記念撮影をしながら、「うーん、これは何かの予兆だ。きっと今日の稽古では記念すべきことが起きるはずだ!」などと勝手に盛り上がっていました。
で、駐車場から文京スポーツセンターまで歩いていき、柔道場で月に2回の稽古を開始しようとしたとき、受付事務をお願いしている美人秘書が僕に教えてくれました。な、な、なんと東京道場入門者通算1000人目の入門者がその日入門して下さったとのこと!
そう、あの3・11東日本大震災直後から始めた東京道場が丸8年とちょっとで入門者が1000人を超えたのです!
いやー、感無量ですね。
あ、その記念すべき1000人目の入門者には記念品としてフランスで活躍なさっている松井守男画伯が描いて下さった僕の似顔絵のコピーを額に入れたものを受け取っていただきました。
そして、その日の稽古に参加していた門人達全員も一緒に記念撮影と洒落込んだのです。
夏の週末は、こうして無事に終わっていった・・・と思いきや、夜中になると僕の部屋を包んだ白金の龍穴の活動が活発になっていたようです。東京道場の四天王の一人が夜の龍穴の写真を撮ったところ、高価なデジカメの調子が狂ったあげく、このように摩訶不思議な写真が撮れてしまったのですから!
龍穴上空の空間が歪んでいるとしか思えない写真には驚きましたが、やはり夏の週末には背筋がゾッとする体験が不可欠なのでしょうか?
ゾッとする怪談話よりもエアコンで涼しくなりたい保江邦夫