トワエモワの歌ではありませんが、夏の終わりは急に寂しくなるものですね。そんなときには景気をつけに明るい昼間にスポーツなどで汗を流すのがよいとされますが、生来の天の邪鬼と揶揄されることの多い僕の場合はよけいに寂しさがつのる方向に自分を追い込んでいくことになります。そして、寂しさをつのらせるには朝日に向かっていくよりも、沈みゆく夕日を眺めるのがいちばん!
そういうわけで、先日の午後遅い時間に愛車ミニクーパーを駐車場から出した僕は、東京の中心部で寂しさをつのらせるスポットを探しに行ったのです。
まず訪れたのは、沈みゆく夕日を眺めるベストスポットであるレインボーブリッジ。数週間前にレインボーブリッジを走り抜ける「ゆりかもめ」の中から東京湾を眺めようと最後尾に乗り込んだとき、何故か車内も車外も暗い雰囲気で寂しいことこの上なかったからです。
あまりに寂しい車内だったために、観覧には最高の展望席がごらんのように空いていたにもかかわらず、そこに座って沈みゆく夕日を眺めようという気にもなりませんでした。そう、レインボーブリッジはロマンティックな場所などではなく、寂しさをどんどんと増大させていくのにピッタリの場所だということを僕は既に知っていたわけです。そして、ミニクーパーを下に駐めてレインボーブリッジに上ってみれば、案の定そこから遠くのビルの谷間に黄昏時のスカイツリーの淡い姿が見え隠れします。
その少し左側に並ぶ高層ビルの窓ガラスが反射したオレンジ色の夕日が東京湾の水面に反射する光景もまた、実に寂しさをつのらせてくれます。
ほぼ満月のタイミングだったため、西の空に完全に日が沈む頃にレインボーブリッジから下りてみると、東の空に浮かんだ丸い月の明かりが青白く東京湾の水面に反射し、よけいに寂しさを演出してくれていました。まるでホタルイカの群れが波間を漂うかのようです。
そんな寂しい光景に見入っている間にも周囲はどんどんと暗くなっていき、遠くの水平線のすぐ上のあたりには羽田空港に着陸しようとする旅客機の明かりが乱舞しています。UFOマニアならば「すわっ、東京湾上空でUFOが編隊飛行!」などと誤解してしまうかもしれない場面なのでしょうが、これもまた充分に寂しさをつのらせてくれる光景でした。
駐車場に戻ってミニクーパーを動かす前にレインボーブリッジを見上げたとき、青白い満月がちょうど巨大な橋梁の横に顔を出していました。風景としてはなかなかおつなものかなと思いはしましたが、これとてやはり夏の終わりに見ればかなり寂しい光景に映ってしまうのは、どこにも人がいないからなのでしょうか。
そして、ガラ空きだった駐車場に置いてあった愛車の横には、いつの間にかこんな珍しい色のフェラーリが鎮座しているではありませんか! 30倍ほどの値段のする車がお隣に置かれるというのも、これまた十二分に寂しい心境に追い込まれる材料になりますが、ミニクーパーに愛着のある僕はそんなことでは動じません。
むしろ小粋なミニクーパーがよりいっそう際立つ街中を走らせてみようと思い至った僕は、フェラーリよりもミニクーパーが似合う街角を探すためにエンジンを始動します。
芝浦埠頭に別れを告げて行ったのは、まずは青山一丁目界隈。よくテレビドラマのロケに使われるという裏道は、フェラーリよりもミニクーパーに軍配が上がります。
青山からは浅草に向かったのですが、有名な「神谷バー」もなかなか寂しげな雰囲気でした。
その前の交差点から見上げたスカイツリーの夜景にも、これまたなかなか寂しいものがあったのですが、ちょうど都バスが映り込んでいたからかもしれません。
浅草からは華やかさの中の寂しさを求め、小雨が降り始めた中を銀座に向かいます。
銀座も中央通りなどの目抜き通りではフェラーリにはかないませんので、すずらん通りや並木通りなどを走っていきます。
すると、銀座のビルの谷間にこんな小粋な二階建ての店舗が実に寂しそうに建っているのが見つかりました。華やかなファッションビルが両隣にあるのですが、その間にあって何ともいえない風情を醸し出してくれています。
そして、銀座で最後に見つけたのが、この寂しげな表情のビルです。
如何でしょうか? 目の錯覚でも、カメラの不具合でもありません。れっきとしたビルのデザインで、このような壁面になっているのです。でも、これまた充分に寂しい印象を与えてくれますね。
最後にはヘンなビルの形に笑い出してしまうことで、過ぎゆく夏の日の寂しさを忘れてしまうことができた、おセンチ保江邦夫